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2020-05-26
 

良い社史編集者とは何か(6)-社史の編集者としての経験を通じて

社史・アーカイブ総合研究所研究員 出版文化社東京 元編集長 吉田武志

1.日本独特の媒体「社史」

「社史」は、日本の企業社会独特の出版ジャンルとして成立してきました。もちろん、書店やネットで流通する一般読者向けの企業の評伝はどの国にも存在しますが、本稿で取り扱うのは、企業の自費発行物である社史のことです。日本の社史に近いものとしては、主に米国で発行されている学者や研究者が執筆した企業史がありますが、これは純然たる学術書で、大学の出版局などから発行されています。欧米におけるそれ以外の社史は、企業自身が自社のルーツやアイデンティティについて消費者や社会全般に向けて発信する広報ツールであることがほとんどです。ホームページなどにも「わが社の歴史」をストーリーとして掲載している事例が多く、欧米の企業は広報・宣伝としての歴史の活用に熱心だと言えるでしょう。
対照的に、日本企業の多くは、いまだにホームページの沿革に年表しか掲載していません。現地からの要請で海外法人のサイトだけ、年表ではなく企業ストーリーにしたという事例もあります。そんな風土の中で、日本企業の社史は学術書でも広報ツールでもない媒体として発達してきました(韓国にも日本と同様な社史は存在しますが、これは近年のことで、内容は日本式の社史の踏襲です)。なかでも正史と呼ばれる伝統的な社史は、出版業界や広告業界の観点から見れば、何のために、誰に向けてつくられたのかわかりにくい書物です。「ディテールがやたら詳細で読み下しにくい文章」「企業の一人称でありながら、客観性を重んじる(あるいはPR色、情緒性を廃する)内容、文体」等々の特色からは、論文や公文書が想起されます。とはいえ、論文のように結論(学説)があるわけでも、公文書のように掲載を義務づけられた情報があるわけでもありません。露骨な宣伝意図も見当たりません。一体どういう経緯で、この不思議な媒体を生み出し、何を目指してきたのか。それを知らずに「良い社史とは何か」を、読みやすい、面白いなどの一般基準で論じることはできません。

「社史・アーカイブ総研の挑戦」(2019.10出版文化社刊より抜粋)

 
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