社史研究への誘い

2020-01-23
 

良い社史編集者とは何か(1)

社史・アーカイブ総合研究所研究員 宮本典子

社史の制作サービスで大切なこと

編集者と聞くと一般的に思い浮かべるのは、小説やビジネス書で企画を立てベストセラーを生む書籍編集者でしょうか。それとも週刊や月刊の短いスパンで締め切りに追われながらも活気あふれる雑誌編集者でしょうか。

社史の編集はそういった媒体に比べればたいへん地味です。社史は、限られた人たちのために、その企業の歴史を残し未来への参考にするという目的のために作成される特殊な媒体です。資料やデータを集め、取材や事実確認を繰り返し、1~ 2年の期間をかけて、小さなステップを積み重ねていきます。もちろん締め切りはありますが絶対的ではなく、状況によっては延びたりもします。流行や時流にもあまり左右されず、本ができたからといって書店には並ばず、まして世間で大きく話題になったりすることもありません。

このように社史の編集には、一般の書籍や雑誌の編集と違うところがたくさんありますが、最も大きな違いは、お客様(制作を依頼した企業)がいるということでしょう。基本的に、その企業の意向に沿って、制作にかかわる費用を全額いただいて作成します。よって編集・制作に関する専門知識・技術は必要ですが、広い意味ではサービス業に含まれます。

このような特性をもつ社史の編集者には、お客様の意向を汲んで、一緒に良い社史を作っていこうという気持ちが大切です。

その第一歩は、お客様をよく知りたいという好奇心と意欲であろうかと思います。社史を作ろうとする企業は、すでに何らかの実績があり歴史がありますから、HPもあればたくさんの資料もあります。もちろんそれらを読むことも大切ですが、それだけでは不十分です。トップの人柄や考え方、その企業の社風、さらには訪問した際の印象も大切な材料です。さまざまな機会をとらえて、その企業を読む、見る、感じることが必要です。

また社史を完成させて納めるだけが仕事ではありません。制作過程そのものが仕事の一部です。途中経過が不満だったけれど、でき上がったものは大満足ということはあり得ません。

企業の経営史を綴る一端を担っているという誇りや、「社史を作るという作業は大変だったけれど面白かった、御社と仕事できてよかった」と言っていただくことが、ほかの媒体にはない社史の達成感の一つです。

ですから、長く一般書の編集に携わってきた編集者が社史を担当すると少し違和感があるでしょう。誰しも自分の企画を形にしたい、自分の考える方法で進めたいと思うのは当然のことですが、その思いとお客様の意向をいかに合わせていくかが、難しいところです。いくら調整を重ねても折り合わないこともあります。そんなときは、お客様の意向を優先するという割り切りも必要です。

「社史・アーカイブ総研の挑戦」(2019.10出版文化社刊より抜粋)

 
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