社史・アーカイブ総合研究所 研究員 吉田武志
長期、中期の経営計画に基づいて意思決定を行う近年の大企業の場合、資料と取材から導きだされる出来事や施策の因果関係を模式図にすると、概ね図1のようになるはずです。
もっとも、日本企業に中長期の経営計画が浸透するようになったのは、グローバル化、マルチナショナル化が進み、事業の多角化志向が強まるにつれて、緻密な経営計画なしには運営できなくなったからで、概ね 1980年代以降の話です。それ以前の経営は単年度計画が基本で、意思決定の構造はもう少し単純です。
経営計画に相当する部分は、大局的な、ざっくりとした経営方針になり、個別具体の施策との因果関係は必ずしも明快ではなくなります。この時代の社史を、執筆する立場からみれば、文脈の整理基準があいまいになるデメリットはあるものの、反面、計画が複雑さを伴わないので、経営意思のあり様が明快で、ストーリーラインがつくりやすいというメリットがあります。
そこで、問題となるのが、個別具体の出来事と経営意思との文脈です。ストレートに経営意思とつながったものから、予想外の事象に対する場当たり的な対症療法に近い施策まで、文脈のレベルが違う出来事が混在しがちです。緻密な経営計画を立てる近年では、たとえ突発事象があろうとも、それは年度ごとの計画の見直しに吸収されていきますが、この時代にはざっくりとした経営方針しかないか、経営計画があっても抽象的です。
そこで、個別具体の出来事の文脈のつかみ方は、ビジネスモデルに沿った整理になります。図2は、メーカーの場合の単純なモデルです。また、総務・人事・福利厚生などいわゆるスタッフ系の施策は、ビジネスモデルよりは労働行政やコーポレートガバナンス思想の変化に合わせることが多くなります。こうした因果関係がはっきりわかるのが、良い社史です。
なお、創業期はそれぞれの企業により創業の経緯が違うので、個別の対応になります。創業者の自伝、評伝など過去に文章化されているケースが多く、内容も(国策や企業グループの施策の一環として設立された企業を除けば)創業者個人の事績に偏った、他章とは異質のタッチになりがちです。エピソードや創業者の主観描写などを交えることもしばしばです。
「社史・アーカイブ総研の挑戦」(2019.10出版文化社刊より抜粋)
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