アーカイブの活用

 

「におい」を固定して次世代に遺す

私たちには「におい」の記憶があります。海辺の町を訪れたときの潮の香り、卒業式の日の沈丁花の香り、入院した病院の消毒液のにおい、良きにつけ悪しきにつけ、「におい」の記憶がさまざまな思い出と結びついています。時代の移り変わりの中で消えていく「におい」もあります。かつては製紙工場や菓子工場の近くに行くと独特のにおいがしたものですが、今は環境規制と技術が進んでそのようなこともなくなりました。一過性の「におい」を固定して次世代に遺すこと、すなわちアーカイブすることはできるのでしょうか。

この問いに答える画期的な試みが、戦後70年の節目を迎える沖縄で取り組まれました。沖縄県南風原(はえばる)町が、太平洋戦争末期の沖縄戦の際、陸軍の病院壕(ごう)に充満していた「におい」を再現したのです。

南風原町の陸軍病院第一外科壕群・第二外科壕群は、米軍の艦砲射撃が始まった昭和20(1945)年3月から2ヶ月間にわたって使用され1,500人以上の傷病兵を収容していました。現在、戦争の悲惨さを伝える証として、町の文化財に指定されています。内部は公開され、狭くて暗い壕内を追体験できることに特徴があります。

「におい」の再現を企画した町立南風原文化センターでは、元ひめゆり学徒隊の女性ら5人から記憶を聞き取り、「におい」のもとは埼玉県の民間企業が調合、3回の試作を経て完成したといいます。血液やふん尿、腐敗臭など7種類の成分を混ぜ合わせたにおいがガラスのボトルに詰め込まれました。(2015/1/22 時事通信)

決して、心地良い「におい」ではないかもしれませんが、当時そこにいた人々の苦難を知る手かがりとして、次代に引き継いでいかなくてはならない記憶のひとつであろうと思います。

 
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