アーカイブの考察

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記録概念の欠如がもたらすデータ改ざん

有名大企業による不祥事が続いています。

以前、日産自動車やスバルが無資格の社員に新車の検査をさせていたということがありましたが、なかでも2017年10月8日に発表された神戸製鋼の検査データ改ざんは問題の根が深いものです。

顧客と約束した性能を満たさない検査証明書のデータを書き換えて合格品のように装ったり、約束したサンプル検査の回数が満たないのに、架空の数字を書き込んで必要な検査を実施したように見せかけていたというのです。

しかも品質管理の担当者自らが改ざんしていた例もあるそうですから、かなり重症です。

当初の発表ではアルミや銅製品に限られていた対象が、その後主力の鉄鋼製品へと拡がり、取引先も200社から500社へと拡大しています。またこのような不正は10年以上前から続いており、グループ全体の組織的な不正体質、隠蔽体質が問われる状況となっているのです。

ところで、この不祥事の新聞報道を見ますと、各新聞すべてが「データ」の改ざんと報じています。一般の読者もこの言い方に異を唱える人はいないでしょう。

しかしながら、この「データ」という表現に、記録管理を専門とする筆者は少なからず違和感を覚えるのです。

なぜでしょうか。実はグローバルスタンダードの記録管理では、この場合の「データ」は単なるデータではなく、あくまで「記録」なのです。つまりデータや情報の中には、一般的な「文書」(document)と「記録」(records)が含まれており、欧米では、この二つは厳密に区別されているのです。

そして「記録」は重要なもの、侵すべからざるものと認識されており、それゆえ書き換えることはできないのです。ちなみに記録管理の国際標準では「記録」は「法的な義務の履行または業務において証拠及び情報資産として作成、保持される情報」と定義されています。

翻って神戸製鋼のケースを見てみますと、検査データが「記録」として扱われず、あくまで一般的な文書として粗末に扱われた結果が改ざんという事態を招いたと考えられるのです。

新聞の論調では、厳しい国際競争の中で高い品質やコスト削減、納期厳守を要求されることが背景にあると指摘されています。確かにその通りでしょう。

しかしながら神戸製鋼だけではなく、日本企業でこの種の不祥事が多いのは、「記録」の概念がなく、欧米流のきちんとした記録管理が組織に根付いていないことが背景にあるような気がしてなりません。

欧米の企業では、コンプライアンスや説明責任を果すための記録管理が徹底しており、そこに大きな違いが感じられるのです。

社史・アーカイブ総合研究所 代表 小谷允志

 
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